修善寺 あさば

ヨーロッパ出張後の疲労回復の場に選んだのは、昔からの湯治場である修善寺です。
その修善寺のあさば旅館は、私の大好きな旅館です。夫婦揃っての訪問は、私が長年姉のように慕い、妹のように目をかけつづけてくれた、その女将に夫を紹介する事も目的でした。 
初めて訪れた夫を、ご自身が一番好きだと言っていた見事な着物姿で迎えて下さいました。そんな女将の心使いは、お部屋のお軸や一品目の料理の下から現れた寿の文字と、朝食にそっとそえられた一口の赤飯。その茶碗には、小さな万年亀の絵。どれもが夫婦の末長い円満を祈りつつの心使い。とても縁起が良いと、早朝の池に舞い降りたシラサギを、ことのほか喜んで下さいました。
何度行っても、ここの居心地の良さは別格です。無駄も虚飾も、出すぎたサービスもない。しかし歴史に裏打ちされたおもてなしの心と価値観があります。
すべてが自然でさりげなく、そしてどこまでも行き届いた日本の伝統を伝える世界。
今に至るまで、文人墨客をはじめ、各界のトップを極めた人達を魅了しつづける、あさば。その秘密を9代目女将に尋ねたことがあります。
答えは350年、当たり前のことを当たり前に、日々積み重ねただけという、他の追随を許さない、あさばの偉大な伝統。
やわらかな静けさに包まれた、安らぎの空間。その背景にある幾重もの物語。感性の引き出しの数だけ、あさばのすばらしさが感じられることでしょう。